「合理的配慮」って何?
平成28年施行された障害者差別解消法「障害を理由とする差別の解消を推進に関する法律」では、障害のある人に「合理的配慮」を行い、共生社会の実現を目指すことがうたわれています。
合理的配慮とは、障害のある人が、社会の中にあるバリアを取り除くために、何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられた時、過度の負担のない範囲で、その意思、要望に対応すること、対応に努める事です。
聴覚障がい者が、社会で生きていく上で、困難と感じていたことが、この合理的配慮により、軽減されています。
神奈川聴覚障害者総合福祉協会及び、神奈川県聴覚障害者福祉センターの事業で実施されている合理的配慮について紹介します。順次、更新していきます。
令和6年4月1日より合理的配慮の提供が義務化されます。
聴覚障がい者を雇用している事業所のご相談を承っています。
また、企業向けコミュニケーション支援研修もご活用ください。
① 手話通訳・要約筆記等の情報保障者の派遣
職場や受付、病院等あらゆる場面で、聴覚障がい者が相手の話していることが分からず、理解できない、一緒に会議に参加できない、何もわからないまま話が進んでしまっている等、課題がありました。
聴覚障がい者と話がしたい、聴覚障がい者と共に働く職場で同じ情報を持ちたいときには、手話通訳等の情報保障の準備をしてください。
申請方法は、内容により各市町村の窓口(聴覚障がい者自身による申請)、または神奈川県聴覚障害者福祉センター〔神奈川聴覚障害者総合福祉協会〕(企業、団体等による申請)となります。
各市町村では、派遣要綱が定められており、その要綱の範囲で個人または団体の派遣が認められます。
雇用関係にある職場等で、手話通訳等を利用したい場合には、雇用者である、事業主が手話通訳者等の申請をすることになります。
申請先は、神奈川聴覚障害者総合福祉協会です。
手話通訳等派遣について知りたい方は、派遣担当までご相談ください。
② ヒアリングループ等の補聴支援システムの配置、活用
補聴器や人工内耳をしていても、きこえは十分ではありません。より聞こえの状態を補助してくれるシステムとして、ヒアリングループ等の補聴支援システムの設置が求められています。
ヒアリングループは、マイクを通して音声を磁気に変換し、ループ状の電線に流します。それを、補聴器や、人工内耳を使用している方がTモードに切り替えることによって、聞くことができます。周囲の雑音や話し手からの距離に影響されず、マイクの音声が補聴器や人工内耳に届くため、補聴器を利用している中途失聴難聴者・高齢者の活性化対策としても大変有効です。
ヒアリングループは今後様々な施設で設置されることを期待しています。
※ なお、聴覚障害者福祉センターでは、携帯型ヒアリングループの貸出を
行っています。詳細はこちらをご覧ください。
③ 聴覚障がい者向けのアプリ、機器等の紹介
近年は、音声が文字変換されるさまざまソフトが開発されています。
神奈川県聴覚障害者福祉センターが、相談に来た方々に紹介している主なソフト、機器等は以下です。
・UDトーク
・Speech Canvas
・YY文字起こし
・YYProbe
・声文字(自立コム(有料))
・JV2T
・みえる電話
・こえとら
・声で筆談
・タップで会話
・筆談ボード
・シースルーキャプション等
当センター受付に設置しているシースルーキャプション
聴覚障害者の生活を支援する福祉機器の展示・貸出しをしています。
詳細はお問い合わせください。
当センターロビーでの福祉機器の展示風景
④ 聴覚障がい者と簡単なコミュニケーションをとるためのノウハウも知ってほしい
・目と目を見て口形をはっきり
・後ろから話しかけてもわかりません。(視界に入ってから、声をかける)
・肩をやさしく叩いてください。ただし、お互い了解していないと、突然で
びっくりします。
・文章はわかりやすく。短く切って伝えたほうが、わかりやすい方々もいま
す。
・口話だけだと、似たような口の形でコミュニケーションにズレが起きる
ことがあります。手話や文字での確認もできたら、さらに良いと思います。
合理的配慮の事例
① 聴覚障がい者の大学生。簡単な手話対応可。音声も可能。普通校の小・中・高校で育つ。
大学に入学した。入学当初は、情報保障はなくても大丈夫と思った。中学、高校の授業では席は一番前、担任の先生からのフォローや、教科書や参考書で勉強についていくことはできた。入学試験の面接では、「情報保障はつけられない」と言われたが、これまでの様子から大丈夫だと思った。
しかし、大学は、教科書がない授業も多く、先生の講義を聞いて、自分でノートを作ってまとめていく。情報保障なしでは、内容がわからなかった。そのため、ノートテイクを申請したところ、大学側でノートテイクの学生をつけてくれた。それはとても助かった。ゼミの授業では、教授と仲間と議論する場面ではノートテイクでは追いつけず、リアルタイムに議論するためには手話通訳者の方が良いと思った。手話通訳者を派遣してほしい。
→ 情報保障にはいろいろな方法があります。今は、文字変換ソフトの開発によ
り、様々な変換ソフトを使用して相手の言っていることを知ることができま
す。一方的な講義なら、文字変換ソフトがただしく変換されれば、内容を知る
ことができます。
しかし、文字変換ソフトは、誤変換も多く、正しい専用マイクの使い方や、
はっきりした話し方等、話し手の協力がないと、正しく文字変換されません。
→ 議論をし、自分も発言をしたい場合、文字変換ソフトではタイムラグがあり、
発言のタイミングがつかめません。その場合、手話通訳等を利用できると、
多少のタイムラグがあったとしても、対等に議論できます。
→ 毎回の情報保障者は準備できないため、参加している皆で工夫できる取り組み
として、大きな模造紙や、ホワイトボードを準備して、自分が話す言葉を
書いていく方法を実施しているところもあります。
→ 聴覚障がいは見た目ではわかりませんので、誤解を受けることがあります。
聴覚障がい者自身も、合理的配慮について自分はどうしてほしいのか、
きちんと伝えることが大切です。また、学校等も障害には様々な特性があり、
それに合った個別の支援をすることが合理的配慮につながることを、理解
していただきたいと思います。
→ 障がいのある学生の支援に実績のある大学等には、助成金等の支援があり
ます。
② 介護施設 地元ろう学校卒 手話対応 声はやや明瞭
ヘルパーの資格を取得し、介護施設で働くことになった。
職場には、手話が少しできる職員や、簡単な身振りなどをやってくれる職員もいた。
本人は手話が少しできる職員とペアになった。
マンツーマンだと気持ちが通じやすく仕事がしやすかった。
朝礼や会議の際は、隣の人が書いてくれたし、また、これから話す内容はコレですと、事前に書かれた紙を渡され、それをなぞって、話しているところを教えてもらった。
また、本人がよく利用する場所には、ミニホワイトボードが設置されており、連絡事項が書かれていたし、本人も書くことができた。(昔の駅の伝言板の様な使い方)
慣れてきたころに、利用者に「ありがとうの手話ってどうやるの?」と言われ、手話に関心をもってもらえてうれしかった。
手話はできなくても、指差しの利用や、ちょっとした、ゼスチャーや、表情で、通じることができたが、大切なことは積極的にメモに書いてもらった。これはとても大事なことだと思った。
このような配慮があり、仕事ができたのは、発音が明瞭ではないが、積極的に話しかけることができる、本人の性格が関係しているのかもしれない。
→ 手話が完璧でなくても、少し手話のようなものができると、気持ちが通じ
やすくなるかもしれません。
→ マンツーマンのようにして、聴覚障がい者に付いて、仕事を教えてもらえる
と、覚えやすいし、相談もしやすいです。
→ 毎朝の朝礼では、皆さんと共通に情報がほしいです。大切なことを話してい
るかもしれません。これから話される事など、事前に提供していただけると
とてもありがたいですし、込み入った話には手話通訳等情報保障の派遣を
お願いしたいと思います。
③ 就職したあとの私の情報保障環境の工夫(職員)
50歳代 ろう者(重度聴覚障害、音声不明瞭)手話が日常生活言語
学歴は、ろう学校15年(幼~高) 国立リハビリ1年半。
20歳時、大手電機会社に入社し、32年半間在籍してきた。
入社当時は、ソフトウェア開発者として配置し、以降退社までソフトウェア関係業務に携わってきた。当時、ソフトウェア開発者は、ろう者としては不適な仕事として、多くの相談員)からでも分類されていたころである。なぜなら、設計というものがどの職種もそうだが、数人から数十人のチームで創り上げていくもので、多くは設計開始時期の会議で7割位仕様が出来上がって、それから物を作っていく工程になっている。すなわちコミュニケーションで設計していると言っても過言ではない。そのため、コミュニケーションの多い職種は、ろう者には適さないというのが当時の常識であったのだ。人の声が聞こえない、しゃべれないろう者本人が、音声言語世界でどう対応していくかが設計仕事を長く続けられるかがポイントになってくる。
ところで、入社後、いきなり挫折にあう。
職場は筆談で対応していたが、問題は教育受講であった。
当時のソフトウェアの技術は日進月歩であったため、企業内にある学校に毎年30日ぐらいの教育を受けることになっていた。受講にはテストがあり、及第点でないと単位がとれないのだ。教育1コマで10数万かかる講座があり、単位がとれないと再度受講することになる。困った本人は、会社に手話通訳をつけてくれと何度もお願いする。企業側とWin-Winで手話通訳がつくようになった。全講座にである。退社までつけていただいた。
そして、職場の話。コミュニケーションのすれ違いが原因で設計したソフトが顧客のところで事故(動かない)が起きてしまうことがあった。これをきっかけにチームで話し合った結果、本人がチームに合わせる努力するよりも、チームみんなが本人に合わせたほうが意思疎通が早く図れるのでないかという結論になり、朝礼と週1回1時間の手話学習会を開くことになった。それで会議は全員が指文字、手話でやるようになった。この状態はチームメンバーが変わっても20年ほど続いた。
のちに手話できる人がいないところに異動する機会があった。それでどうするか。
チーム全員、PCのチャット機能を利用してコミュニケーションをとるようにした。または会議室にはプロジェクターが常備してあったので、それで壁に文字投影してもらうようにしていた。
それが退社までの10年ぐらい続いた。
うちの企業は他企業より早いうちから手話を取り入れてきたから、製品のPRショーにも手話による営業も取り入れてきた。
入社時、通っていた寮や職場にFAXを置かせてもらった。私はいろいろお願いしてきたが、当時の難聴者先輩によく怒られていた。一人前になっていないくせに会社にわがまま言うなと。私は反論した。ろう者が一人前になるためには、FAXや手話通訳が必要なんだと。
開発業務に長くいられたのは、本人が、自身の聴覚障害について、できるところと絶対できないことを相手に伝え、かつ方法の提案をする。そして、社会人としての常識を理解し頑張ってきた。そこをみてくれたから、本人とのコミュニケーションに皆協力的であった。協力的というよりも仕事でやっているから。本人にも頑張ってもらわないといい物が作れないという意識が周囲にそうさせたかもしれない。
SDGsと神奈川県聴覚障害者福祉センターとの関わり
聴覚障がい者に対して、その社会的自立を促進するために、各種の指導、訓練等を行うとともに、日常生活に必要な情報を提供、及び聴覚障がい者に対する社会奉仕活動を行おうとするものに対して、その活動のための便宜を供与することで聴覚障がい者の福祉の増進を図るためのSDGs施設であり、SDGsの目標3(保健)、目標4(教育)、目標10(不均等)、及び目標17(実施手段)と関わっています。